混雑を避けて、ジェームズ・ボンド島に上陸

去年の夏の話です。映画のロケで知られる場所にいきました。

「ジェームズ・ボンド島には行かない方がいい」と、よく言われます。理由を聞くと、「観光客がうじゃうじゃいて、忙しないから嫌になっちゃうんだ。」と答えられます。私は「でも、それがジェームズ・ボンド島なんだ。」と言っています。

「ジェームズ・ボンド島」という甘美な名前の響きは、魔法のように彼女のシンディが熱望していたことを思い出させ、彼女を心底喜ばせるためには、その映画の巡礼地に行かざるを得なかったのです。
彼女が子供の頃から大ファンだったのは、クリストファー・リー演じるアカ・スカラマンガなのです。ジェームズ・ボンドではありません。

この島の正式名称は、カオ・ビン・カンです。しかし、地元タイの人でもその名で呼ぶことはありません。ファンナ湾の北端にあって、本土から手の届きそうなところになります。船室からは青々と生い茂ったマングローブが水際から垂れ下がっている光景がずっと遠くまで見られます。
この一帯は壮大なだけでなく、環境の観点からも重要なのです。水深は浅く、私たちの船が停泊していた港と同じくらいの深さです。

午後、遅い時間に到着しました。見晴らしの良い地点で見渡すと、いきなりの洗礼があります。
島はまだ、日帰り客のボートに取り囲まれています。
今ではロングテールボートが、コ・ランタでもプーケでもバンガローで客を拾って、露店だらけのこの島の小さな浜に連れてきてしまいます。

毎度のことですが、誰にも邪魔されずにじっくり観光したいならば、このように有名な観光スポットには早朝か午後の遅い時間を目指すべきです。彼女をタージマハールに連れて行った時は、夜明け前の誰もならんでいない時間帯でした。開門とともに霊廟目指してまっしぐら。入口からの景色と、お約束の「ダイアナのベンチ」の撮影を計算に入れて。
その結果、20分間シャー・ジャハンの比類なき愛の誓いを単独で味わう至高の時間を持てました。ドームの中でひんやりとした大理石に寄りかかり、しっとりとした空気の中で聞こえる羽音に耳を澄ませました。ジェームズ・ボンド島の観光の魅力は異なりますが、攻略の原則は同じです。

島上陸の前の晩は、ヒンヤリしていました。気持ちを落ち着かせ、カメラをバッグに詰め、録画装置を準備して夜明けの出発に備えました。そう、最重要なこととして「黄金の銃を持つ男」を観ました。

映画の中でロジャー・ムーアが水上飛行機で中国に潜入し、いくつかの緑の島を飛び越えてスクラマンガの隠れ家に迫ります。まるで案内板を実況してくれているようでした。行ってきたばかりの島をジェームス・ボンドが飛び越えるたびに歓声をあげ、私たちが碇を下した場所を指さしました。

「奴は強力な武器を持っている一発撃つのに、100万ポンド。天下無双の殺し屋、黄金の銃を持つ男」

ステルス機のように密かに、まだ耳に残るルルの歌声をモーター音にかぶせながら、夜明け前に上陸しました。カオ・ビン・ガン島に急ぐ間は、黒いウェットスーツとワルサーを持っていれば完璧にボンドの映画を再現できたでしょうね。10分後には朝食をとる時間も惜しんで小舟を砂浜に引き上げました。

海はロープとブイで仕切られていました。
岩を通り抜けられる通路が穿ってありました。
案内書とコーヒーショップがあって、案内標識もあちこちに。でも観光客は未だいませんでした。
観光事務所の職員と思しき数人の男たちが、眠そうに通路や土産品を掃除していました。

タイ語で「サワディークラップ」「サワディー・カー」(現地語の「こんにちは」)と挨拶を交わしました。
チケットカウンターは開いていませんでしたが、急いでお金を取ろうなんてことはなかったです。

二重構造の島の間にある海峡の片側には、映画で有名になった石灰岩があります。思ったよりはずっと小さいのですが、重力を感じさせないマッシュルームの形状は、他に見たことがありません。反対側に作られた小さな港は観光客の出入り口で、そこにも面白い形状の岩があります。

ご想像のとおり、何も興奮に値するものはありませんでしたが、彼女の満面の笑顔は素敵でした。